研究紹介

ここでは、私が行っている研究についてご紹介します。

色々な繋がりのなかで自分が興味をもって取り組むことができる研究をしていると、研究分野が多岐に渡ってきました。「動物や人の健康に関わる研究」という意味で私の中では全てが繋がっていて相互に関係しているのですが、少しわかりやすく(?)するために、仏教の阿修羅像を使って説明してみました。(*阿修羅像の見た目を使った例えであって、阿修羅像そのものとは全く関係ありません)

阿修羅像は三面六臂、つまり3つの顔と6本の腕をもっているわけですが、私の研究も大きく3つの側面があり、それぞれがヒトと家畜(特にブタ)に関わり細分化されて6つに分けられます(図は無理やり6つにしている感は否めませんが。。。)。

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腸内細菌叢(の発達)と全身疾患について

 腸内細菌叢という言葉をご存知でしょうか。腸内細菌叢とは、腸の中にある細菌の集まりのことを指します。時折、テレビの情報番組や美容・健康雑誌などでも取り上げられているのでご存知の方もいるかもしれませんが、我々ヒトを含む全ての動物の腸内には細菌が棲んでいて、腸内細菌叢を形成しています。これは細菌の種類にして500種類以上、数にして370兆個にもなる一つの立派な生態系です。つまり我々は体の中に細菌による一つの生態系を住まわせているのです。ちなみに、370兆個という数は我々の体を構成する全細胞の約10倍で、我々の体重のうち1-2kgは腸内細菌叢が占めていると言われています。

 このような膨大な数の細菌が、我々の健康に影響しないはずはありません。古くから、下痢や便秘などのお腹の病気に腸内細菌叢が関係することが知られていましたが、近年になって肥満や糖尿病、果ては精神疾患にまで腸内細菌叢が関係することが明らかになってきました。

 私は、この腸内細菌叢がどのように我々の健康に関わっているかを調べています。例えば、ある疾患の患者さんの腸内細菌叢では、健康なヒトの腸内細菌叢に比べてある種の細菌が極端に増えたり、減ったりしているのですが、この増減が何故病気に結びつくかを調べています。また、崩れた腸内細菌叢のバランスを整えるために有効な方法、具体的にはそういったことができる機能性食品の探索や評価も行っています。一方で、腸内細菌叢というのは一度形成されてしまうとなかなか大幅に構成を変えることが難しいことがわかっていますので、腸内細菌叢が形成される過程を調べて(図)、疾患になりにくい腸内細菌叢を作るにはどういった要素が大事なのかも検討しています。

 我々の研究を通じて、肥満や糖尿病、精神疾患といったいわゆる現代病を少しでも減らすことができればと考えています。

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*腸内細菌叢の16Sメタゲノム解析について思うこと・・・

ここで少しだけ雑談めいた私見を書かせて頂きます。2014年頃からMiSeqを使った細菌叢の16Sメタゲノム解析をよく実施しており、これまでに3−4千人のヒト、数百頭の動物の腸内細菌叢を解析してきました。おかげさまで共同研究のご依頼も多数頂きます。その中で感じたこと、思ったこと、実施する前に知っておいていただきたいことがあります。

 

1.種までの同定はできません!

 共同研究のご依頼を頂く際に、種レベルの同定ができないかと聞かれることがあります。基本的に16Sメタゲノム解析では種レベルでの同定はできません。最近16Sメタゲノム解析に一番よく使われているのは454FLXに取って代わったMiseqだと思いますが、Miseqの600PEで解析を行ってもアッセンブル後のリード長はおおよそ550bp程度です(16Sの全長はおおよそ1500bp)。これではそもそも同定と呼べる行為はできないわけですが、16Sのおよそ1/3を読んでいますから、ある程度の絞り込みはできます。しかしながら、絞り込みができるといっても、その範囲はせいぜい属レベルで、特徴的な配列を持っているいくつかの種に関してのみ種までの絞り込みができるという感じです。なかには属レベルの絞り込みすらできず科レベルまでのものも出てきます。

 ただし、少し踏み込めば近縁種を推定することができる可能性はあります。一般的に、16Sメタゲノム用のシーケンスデータ解析をするときは、まず何千万というリード数のシーケンスを類似した配列同士のグループ(OTU)に振り分けます。そして、このOTUがどういった細菌科・属(種)に類似した配列を持つかを調べるわけです。この時に参照するのによく使われるのがGreengeensというデータベースです(2016.Febの時点だと13_8が最新だと思います:更新されないのでSILVA Databaseを使うこともしばしば出てきましたね)。解析結果をみて例えば対照群と実験群の間で、あるOTUにすごく差があるということがわかったとき、この”あるOTU”の配列はもちろんわかっていますから、これをもう少し詳しくデータベースと照合すれば近縁種がわかることはあります。ただ、ほとんどの場合は、2−3の同属他種と同程度の相同性を示しますので、一つに絞り込むことはできません(初めのGreengenesを参照とした解析では一つの種に絞り込めないから属までしかわからないというパターン)。*QIIME2から実装されたASV(Amplicon Sequence Variant)によって、より細かいシーケンス配列のグルーピングができるようになったことで種レベルまで推定できることが増えてきたように思います。

 

2.そのデータ活かしきれてますか?

 Miseqを使ったウェットの解析を含めた共同研究依頼も頂くことも多いのですが、Miseqで得られたシーケンスデータのドライの部分の解析についてもご相談頂くことが少なくありません。たいていの方は解析委託業者からもらったエクセルデータとQiimeのtaxa_summary(名前は微妙に違うことがあります)の図だけをみておられることが多くて、主成分分析とか、アルファ多様性とかもう少し踏み込んだ解析はどうすればできますか?というようなことを質問されます。シーケンスデータ解析にはUNIX系のOSが必要で、しかもCUIで操作しないといけませんから、多くの方にとっつきにくく、またわかりにくいのは仕方ありません。また委託会社の方も腸内細菌のプロではありませんし、実験について踏み込んだことを聞くこともできないでしょうから詳細な解析ができないのも仕方ありません。でも、「お金かけた割に大したことわからなかった」とか、「16Sメタゲノムって騒がれているだけでこんなもんなのかな?」とか思っておられませんか?確かに実施された実験内容によっては差が全然ないということもあるでしょう。しかしながら、得られたシーケンスデータをもっと違った角度から解析したら見えなかった興味深い差が見えてくるかもしれません。16Sメタゲノムは確かに菌の情報だけですが、Langille et al (2013)のPICRUStを使えば機能的な側面(バイオロジカルパスウェイ)をプレディクトすることだってできます。私もまだまだ100%活かせているとは言えませんが、せっかくお金をかけて実施した解析です、是非データをもっと虐めてやって下さい(S大先生のお言葉を借りました)。*2018年から初代QIIME(QIIME1.9)に変わってQIIME2が正式にリリースされました。また、2019年にはPICRUSt2も発表されました。多くのジャーナルで、QIIME1.9やPICRUStではなくQIIME2とPICRUSt2といった新しいプログラムの使用を推奨し始めているように思います。

もし腸内細菌叢の研究でお悩みの方がもしおられましたら、一度お問合せ下さい。共同研究という形でしたらご相談にのることができます。契約などの関係で共同研究としては難しいという方は有料にはなると思いますが、いくつかの委託会社さんでも同様の相談を受けておられますのでご検討下さい。なお、解析方法だけを教えて欲しいというご相談はご遠慮ください。

 

3.サンプルは冷凍保存のうえ、DNA抽出方法にも注意を!

 共同研究をする際にサンプルの保存方法とDNA抽出方法には注意して頂くようにお願いしています。せっかくお金をかけて16Sメタゲノム解析をするわけですから、良いデータが得られたほうが良いと思います。そのための第一歩は採ったサンプルの取り扱いです。まず採ったサンプル(糞便など)はできるだけ早く冷凍して下さい。胃腸管の内容物中には多量のヌクレアーゼが入っています。できれば、DNAが分解されないようなEDTAやSDSが入った保存液に漬けた状態で保存できるとベストですが、無理な場合はそのまま冷凍でもかまいません。また、DNA抽出方法ですが、基本的にはお好みの方法でかまいませんが、できるだけ色々な菌群を見たい場合はビードビーティングが入った手法を使われることをお勧めします。これが入るのと入らないのではやはりグラム陽性菌の検出率が大きく変わってきます。

ブタの母乳と仔豚の免疫系の発達に関する研究

 科学研究費補助金のテーマとしても採択して頂いているテーマで、ブタの母乳、特に初乳についての研究を行っております。初乳にはどのような成分が含まれているのか、これらの成分が仔豚の発達にどのように寄与しているのかを解明したいと思っています。以下に2015年9月の月刊ピッグジャーナルに掲載して頂いたものからの抜粋を使って簡単にブタの初乳について解説いたします。本来こういった場合の二次使用の著作権は出版社のものですが、アニマルメディア社様のご厚意により私のHPでの使用を許可して頂きました。ピッグジャーナルに掲載して頂いたものにはもっと詳しく書かせて頂いていますのでご興味のある方は是非バックナンバーの入手をご検討下さい。

なお、文章・画像の無断転用は絶対にしないで下さい!

 

初乳と常乳の違い

 まず、初乳と常乳の違いについてご説明します。初乳とは、もちろん分娩の前後に分泌される乳のことを指しますが、分娩後何時間までを初乳というのでしょうか?学術的には色々と初乳の定義がありますが、簡易的には、抗体を沢山含んでいる乳を初乳と定義しても差し支えないでしょう。なお、抗体とは、病原体を体外に排出したり、無毒化したりする感染防御における最重要の免疫成分のことで、乳には、IgG、IgA、IgMという3種類の抗体が含まれています。これを念頭において、1987年にKlobasa et al.により報告された分娩直後から分娩42日目までの乳中抗体濃度の推移を見てみると、分娩後24時間までの乳がそれ以降の乳よりも抗体濃度が高いことがわかります。つまり、分娩後およそ24時間までの乳を初乳、それ以降を常乳と定義することができそうです。しかしながら、我々が分娩後24時間の採材間隔をもう少し短くして抗体濃度の推移を確認したところ、どうやら分娩後6から9時間の間でも抗体濃度が一段階低下することがわかりました(図1)。また、乳中のリンパ球(T細胞やB細胞)の数をみてみると、分娩直後から分娩12時間まで減少して、その後21時間までは安定することがわかりました。これらのことを考慮すると、分娩後9-12時間までを前期初乳、それ以降から分娩後24時間頃までを後期初乳というふうに初乳をさらに分けて考えることも今後必要になってくるかもしれないと我々は考えています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図1. 分娩後21時間までの乳中抗体(IgG)の推移

 

 では次に、仔豚の免疫に対する役割に着目して初乳と常乳の違いを解説したいと思います。図2に示すように、ブタの母乳が仔豚の免疫に対して担う役割は主に2つあります。ひとつは、母豚から仔豚に受け継がれ、仔豚の「体内」で働く免疫で、「移行免疫」といわれます。「移行免疫」については以下で詳しく触れますが、抗体としてはIgGが主役で、この役割を果たすことができるのは初乳のみです。もうひとつは、乳が仔豚の腸管内を通過しながら働く乳汁免疫のことで、主にIgAという抗体や抗菌タンパク質によります。この場合、IgAや抗菌タンパク質などは、哺乳仔豚に取り込まれることはなく、もし使われなければそのまま糞便として排泄されます。この役割は、初乳はもちろん常乳も担います。母豚からの免疫を十分獲得するという意味で、移行免疫はどの疾患の防御にも重要ですが、昨今猛威を振るっているPEDなどの腸管から感染する疾病の防御には、乳汁免疫も極めて大事になります。

図2. 移行免疫と乳汁免疫

 

移行免疫 —初乳が仔ブタにとって重要である最大の理由−

 上述の通り、移行免疫とは母豚から仔豚に受け継がれ、仔豚の「体内」で働く免疫のことで、母子免疫とか受動免疫と言われることもあります。

 ほとんどの方がご存知だと思いますが、ヒトの場合、胎児期、つまりお母さんの妊娠中に子供への免疫移行がほとんどおわっています。しかしながら、ブタやウシなどの畜産動物の場合、胎盤構造の関係から、胎内での移行免疫が起こりません。つまり、ヒトに比べてブタやウシはずっと免疫的に無防備な状態で生まれてくるのです。では、ブタやウシでは、移行免疫はどうやって起こるのでしょうか?それは「初乳」を介して、厳密には、初乳を介してのみ起こります。つまり、ブタやウシにとって初乳とは母から免疫を受け取るための唯一無二の源なのです。これがブタやウシにとって初乳が重要だといわれる最大の理由であり、この意味において、ブタやウシにとっての初乳は、ヒトのそれよりもずっと重要だといえます。

 

初乳から仔豚に移行する成分とその役割は!?

 これが私の研究テーマです。初乳から仔豚に移行する成分として確定しているのは、抗体と細胞だけです。その他にサイトカインなど移行が疑われているものはありますが、確定しているものは前述の2つといっていいでしょう。また、細胞といっても、どういった細胞が移行するのかはよくわかっていません。初乳を飲まないと仔豚がちゃんと生育しないのは明確です。ですので、もっと沢山の成分が移行している可能性は十分にありますし、移行する成分の役割だってもっとしっかりと把握しないといけません。

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異種動物間移植のための感染症検査体制の構築について

 この取り組みには実は2016年頃から参画させて頂いています。京都発革新的医療技術研究開発事業や日本IDDMネットワークからの研究助成金を頂いて進めております。メディアにも取り上げて頂くようになりましたし、ある程度の基礎が出来てきたので、自身のHPにも研究紹介を記載することにしました。

 

 ブタの細胞や臓器のヒトへの移植、いわゆる異種動物間移植に関する厚生労働省の指針が2016年に改定され、異種動物間移植が日本でも実施できる可能性が生まれました。ただ、異種動物間移植を行うためには、厚生労働省の指定する病原体に関して、移植細胞(臓器)からヒトへの感染リスクを排除すべきであり、このためには非常にクリーンなブタをドナーとする必要があります。

 実際にブタの膵島細胞のヒトへの移植の実施例があるニュージーランドでは、DPF(Designated Pathogen Free)のブタがドナーとして使用されています。

 DPFとは、その土地、地域において感染のリスクがある病原体に感染していない状態のことですが、「その土地、地域」でこの定義が変わってしまうことが難しいところです。つまり、外国と日本、極端な話をすればブタを多く飼っている九州とブタの少ない地域(京都などはそうですね)とでも異なることになります。ただ、やはり厚生労働省の指定する病原体リストがDPFの1つの基準になるかと思います。そのため、我々は明治大学、国際医療センター、福岡大学の先生方と共同で、厚生労働省の指針を満たすことのできる、病原体の検査体制の構築に取り組んでいます。

 

研究の概要は日本IDDMネットワークでご紹介頂いておりますので、そちらをご参考下さい。

(もちろん、現在の研究はリンク先の当時よりも進んでいて、病原性の高い、または国内で感染リスクの高い病原性の検査系(ベータ版)ができています)

 

機能性食品(プロバイオティクスなど)と宿主の腸内細菌叢や免疫系に関する研究

 食品は色々ありますが、その中でも健康維持や増進に役立つ食品を機能性食品といいます。ただ、いわゆる健康食品とは異なり、科学的根拠に基づいてこれらの機能を持つといえるものが機能性食品です。特定保健用食品(トクホ)とか機能性表示食品といった表示がついて売られていたりします(全ての機能性食品にこれらの表示がついているわけではありません)。

 機能性食品は食品ですから、食べると消化管に入ります。そこで、吸収されて効果を示すものもあれば、腸の免疫系を刺激することで効果を示すものもあります。そして、もちろん腸内細菌叢を改善することで効果を示すものもあります。

 私は、機能性食品のなかで特に腸を介して効果を示すものを研究しており、プロバイオティクス、プレバイオティクスがヒトや動物の腸内細菌叢や腸管・全身免疫に与える影響を調べています。プロバイオティクスとは、「摂取することで宿主(食べたヒトや動物)に有益な効果をもたらす生きた細菌」のことで、この言葉は最近ではよくヨーグルトなどの売り場でも見かけるようになりました。プレバイオティクスは、簡単には摂取することで腸内細菌叢のうち良い細菌を増やし宿主に有益な効果をもたらす食品です。良い腸内細菌叢とは、ビフィズス菌や乳酸菌、最近では酪酸菌などがこれにあたります(*プロバイオティクスの細かい定義はヤクルト中央研究所のHPをご参照ください)。

 多くの企業様とプロバイオティクス・プレバイオティクスに関する共同研究をさせて頂いていますが、研究成果が公開されているものを、いくつかをご紹介します。

 

1.プレバイオティクスが自閉症スペクトラム障害児の腸内環境を改善し、イライラなどの併存症状を改善する

 自閉症スペクトラム障害(ASD)は対人相互反応における課題を主な症状とする発達障害の一つで、2000年以降世界中で有病率が上昇している病気です。ASDの併存症状として消化器の不調(下痢や便秘)が多くみられることは古くから知られていたのですが、腸内細菌叢研究の活性化でASD児が定型発達児とは異なる腸内細菌叢を持つことがわかりました。我々も日本のASD児と定型発達児の腸内細菌叢を比較し、両者が異なっていることを報告しましたが、もう一歩踏み込んで機能性食品による腸内細菌叢を含む腸内環境の改善を試みました。ASD児は併存症状として偏食をもつことが多いので、機能性食品をなんでも食べてくれるわけではありません。そこで、我々は無味無臭で何にでも良く溶けるという性質をもつ水溶性食物繊維に着目しました。研究では、ASD児に水溶性食物繊維を1日6g、食事でも飲み物でも何に混ぜたり溶かしても良いので摂ってもらい、腸内環境と併存症状の変化をみました。その結果、2ヶ月ほどの摂取で、便秘は劇的に改善し、腸内細菌叢の改善もみられました。さらに、併存症状のうち、イライラといった興奮性も改善しました。興味深いのは、被験者の血液中の炎症性物質(サイトカイン)が腸内環境の改善に併せて低下していた点です。ASDの症状の一因は全身の慢性炎症ともいわれていますので、腸内環境の改善に伴い全身炎症も改善され、結果としてイライラといった併存症状も改善されたのではないかと考えられます。

この成果は、日経のBeyond Healthというサイトで取り上げて、わかりやすく説明して頂いているのでご確認ください。

https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/feature/00003/080500021/

 

2.乳酸菌のRNAを分解すると、腸炎を抑える力が強くなる

 これは殺菌乳酸菌での仕事なので、厳密にはプロバイオティクスではないのですが、最近では殺菌した乳酸菌も効果があるということで市場でもこれを含む商品をよく見かけるようになりました。私は以前から殺菌乳酸菌の研究をしていたのですが、とある殺菌乳酸菌ではRNAがとても強い免疫刺激能力を持つ成分であることを突き止めました(このことを報告した論文)。ここでいう免疫刺激は炎症性サイトカインの誘導のことを指しますが、そう聞くと乳酸菌を飲んで炎症が起こってしまうの?と考えてしまうかもしれません。炎症が起こるというのは間違いありませんが、乳酸菌が誘導する炎症は軽微なもので、上述のASD児でみられるような慢性炎症とは程遠いレベルで、イメージとしては免疫が少し活性化するという感じをもってもらうと良いと思います。実は、運動でも軽い炎症が起こりますが、「運動して免疫を活性化して病気に罹らないように」といったことを聞くことがあるように、軽微の、かつ一過性の炎症は免疫を活性化させて感染防御力を高めることが期待されるのです。

 では、RNAを分解したら全く何もしない素材になってしまうのか?と思ったら、全くそうではありませんでした。この乳酸菌はRNAを分解すると炎症を誘導する力はほとんど失われてしまうのですが、炎症を抑える物質(サイトカイン)であるIL-10(インターロイキン10)を誘導する力はほとんど変化なく残されていたのです。このIL-10は腸炎の抑制に効果があるといわれていますので、実際にRNAを分解した乳酸菌をマウスの腸炎モデルに投与したところ、見事に腸炎の発症が抑えられました。

 論文の著作権の関係で関連する図表は載せられませんが、研究を要約した図が論文のサイトに掲載されていますので、ご興味のある方はご覧ください。

 

 

3.お漬物にはどんな乳酸菌が?

 これは前職の京都府立大学の地域貢献型特別研究の一貫として実施したのですが、京都のお漬物(すぐき漬け、しば漬け)にいる乳酸菌を次世代シーケンサーで調べた仕事です。古来からある京つけものの細菌を最新の次世代シーケンサーで調べる、と考えるとちょっと面白くありませんか?

 結果ですが、当たり前ですが、すぐき漬けにもしば漬けにも乳酸菌がいたのですが、両者で全然違う乳酸菌がいることがわかりました。素材や漬け方、場所が違うと発酵に関わる乳酸菌も異なるのです。どちらもヘテロ乳酸発酵型の乳酸菌がほとんどなのですが、菌種が異なっていました。味の違いにも関係しているのかもしれません。

 この成果は、京都府立大学のHPで公開されていますので、ご興味があればご覧ください。